2015年08月12日

ロールプレイの楽しさ XBOX One『ウィッチャー3』

必ずチェックしている文学賞は大宅壮一ノンフィクション賞しかないし、芥川賞に至っては数年前の『苦役列車』以来の私だが、約束までの時間つぶしに入った本屋で今月の文藝春秋が平積みというか山積みになっていた勢いにおされてつい買ってしまった。

『火花』の方は、漫才師を主人公とした青春小説であるが、到達しないまでも一瞬でも高みに触れることが出来るだけの力量と運を持ち合わせた人間と、いかにその基準(ものさし)から逸脱するかを目指す二人の若者が瑞々しく書かれていてよかった。終盤というか締めの部分で思いっきり飛び道具を出してしまう辺りの悲しみがイイっすね。

そして、『スクラップ・アンド・ビルド』もなかなか。
28歳求職中の主人公が、口を開けば「もう死にたい」と漏らす半寝たきりの祖父のため、その願いを叶えようと祖父の死期を早めてあげる物語。
主人公は無職であるが故か、筋トレなどの鍛錬と共に祖父を見下す事で自己を肥大化させていく幼さと、老いによって老獪という武器を手にした祖父のやり取りには介護をテーマにしている悲壮感は無く、むしろ逆で完全にコメディになっているのが良い。

並べて読んでみると、『火花』の作中で登場人物が漫才に関して「本物の阿呆と自分は真っ当であると信じている阿呆によってのみ実現出来る」と語っているが、『スクラップ〜』ではまさに、その後者の阿呆が表現されツッコミ不在(または読み手がツッコミ)のお笑いとして成立しているというリンクが発生し、またコメディアンである又吉氏が眩しいぐらいに純粋な青春小説を書いた一方、作家である羽田氏がユーモアに溢れる作品になっていて、そんな偶然の対比がおもしろかった。


そんな中、軽い気持ちで手を出したXBOX One『ウィッチャー3』がヤバい。
常に細分化されて来たゲームジャンルの中でRPGというジャンルは様々なジャンルと融合し、もはや成長要素さえあればRPG(的な要素)と呼ばれる昨今。
そんなこんなでRPGの根っこから抜け落ちつつあった、ロールプレイという部分に焦点を当てたゲームがこの『ウィッチャー3』。
プレイヤーは、モンスターや厄介事を片付ける仕事を生業とする「ウィッチャー」の男ゲラルトとなり、世界を冒険していく。
プレイヤーそのものが主人公というよりか、主人公のゲラルトになりきり、彼ならどう決断するだろうかというロールプレイの感覚を楽しむ事が、このゲームの主眼となっている。


序盤のメインストーリーは、主人公の娘(血の繋がりは無く育ての親に近い)が敵の勢力に追われて行方不明になってしまったので、彼女探す旅に出るという単純な物。
『3』とタイトルにあるように、完全な続き物であり、しかも主人公がペラペラと喋るゲームなのでシリーズ未プレイの私は途中から入り辛いゲームかと思っていた。
しかし、その主人公と娘の関係や過去の人物に関して、長いオープニングやただジャーナルに記すなど一度に多くの情報をプレイヤーに与えるのではなく、メインクエストを進めていく中での回想シーンやイベントの会話と上手く絡めてあるおかげで、すんなりと物語に参加出来る。
このメインストーリーに小出しにした情報を入れるその配合というか、絡め方が絶妙。カッペリーニかよってぐらいに上手く絡んでくる。

witcher 3 01.jpg

サイドミッションも、MMORPGによくあるような「敵を○体殺してこい」という物は無く、それぞれにちゃんと物語が用意され、その世界で生きる人々の生活が描かれている。
舞台となる地方は戦時下であるだけに、戦争で家族を亡くしたり飢えや貧困、支配者からの圧制など生死に関わる物も多いがそれだけでなく、男女の愛憎など普遍的なテーマをベースにしたものもあり、感情を揺さぶられる話が多い。
そんな物語の中に魔法や呪術などの不思議な力や、残酷な風習など土着的な背景がスパイスのように挿入されているのもおもしろい。一つ一つの物語の構成は単純な物が多いが、そんな描き方と相まって毒を抜かれる前の昔話(の原型)を読んでいるかのような感覚すらある。


またクエストの途中など会話シーンで挿入される選択肢も凝っていて良い。

あるサイドミッションでは、いわゆるユニークモンスターの討伐ミッションがある。
町の掲示板に貼りだされた討伐依頼の詳細を聞きに行くと、一人の男性がモンスターによって親を殺された孤児を預かり育てる事にしたが、あのモンスターが町の近くを徘徊する事に不安が残るので殺して欲しいという。

その後、親が殺された現場から命からがら逃げてきた子供にモンスターの特徴や出没した場所などの話を聞きに行くが、子供が親を殺された場面を思い出して語る時、話の先を促す事も出来るが、精神を操る術をかけてそれ以上思い出させず苦しみを解く事も出来る。
そして、モンスターを討伐後、約束であった報酬を受け取りに戻る際、孤児を引き取った男性に対し、子を育てるにはお金がかかるだろうからと報酬を受け取らないという選択肢が出る。これは他の討伐ミッションなどでは表示されない。
こういったクエストに沿った選択肢、ただの返答だけではない行動を選ばせる事や、その選択肢毎に合わせて膨大な量のセリフが用意されているので、ちゃんと血の通っている物同士の会話として見せる工夫がしてある。

witcher 3 02.jpg

本作は、『Skyrim』などにあるような、相手に渡した物をその場で殺して奪い返したり、後で家に忍び込んで寝ている間に取るといった自由度があるゲームではなく、むしろガチガチに作られたストーリーを楽しむゲーム。
挿入される選択肢によって自分で物語の方向性を決定し、自らの手で物語を紡いでいる事を錯覚させてくれる選択肢の入れ方は『Mass Effect』を代表とするBioWareが試みていたが、本作はそれの一段上を行っている。


紹介される時に必ず「自由度が高い」というフレーズが付き、開始時に性別や外見まで選べるほど自由なゲームではなく、かといってJRPGによくあるような一本道(マイナスな意味ではなく、これはこれとしてストーリーに振り回される快感がある)でも無い本作は、まさにその間を取った中庸なゲーム。
だけれども、どっちつかずな平凡な作りになる訳ではなく、主人公を演じるというロールプレイにプレイヤーが没頭出来るよう徹底的に作られている事によって、その突き抜けた中庸は他のオープンワールドRPGには無い魅力を醸し出している。


2015年のゲーム賞RPG部門は、今年後半に出る『Fallout4』が期待通りの出来ならば、全て持って行ってしまうかもしれないけど、GOTYを含めノミネートには確実『ウィッチャー3』は上がってくるだろうね。
もし、全体が小粒だった去年に本作が発売されていたら、GOTY以下各賞を総なめにしたはず。
まだまだメインクエストの終わりが見えず途中の状態なので、ゲームクリア後に、後半のストーリーがクソすぎー!!あぶぶーぶりぶりぶりーー!!って言うかもしれんが、今現在50時間弱を費やした中でつまらなかった瞬間は一度も無い程に楽しいゲームではある。
posted by murutori at 00:59| 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする